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ロシア地名の日本語表記について

このページでは、各ページをご覧いただく前に、当ウエブサイトにおけるロシアの地名を日本語のカタカナで表す場合の考え方について、ご説明しています。

ロシアの地名を日本語で表す場合


ロシアでは、ロシア文字と呼ばれるキリル文字の一派で綴られるロシア語が公用語です。もちろん地名もロシア語で表記されています。(当然のことですが・・・)
このロシアの地名を日本語で表記する場合は、カタカナで正確に書き表すことは不可能で、実際に各種出版物をみても統一はされていないのが現状です。
例えば日本海に面する港街に「ウラジオストク」という日本人にも馴染みの深い都市がありますが、この呼び名は日本風にアレンジされた名称の最たるもので、古くは「浦塩斯得」などと書かれ、「浦塩」とか「ウラジオ」と言った具合に略されていました。ロシア語表記では“Владивостокと書きます。これを文字通りにカタカナに転記すると「ヴラヂヴォストーク」となり、発音を再現するとすれば[ヴラヂヴァストーク]となりますが、これとて正確に表記したものではありません。

厄介なのがロシア語の母音の発音は一般にアクセントのないロシア文字の“о”(オー)を[ア]と発音する「アーカッチ」と呼ばれるのが、いわゆるモスクワ標準の発音で、逆に文字通りに“о”(オー)を[オ]と発音する「オーカッチ」という発音もありますが、現代のロシア語では「方言」の要素が強いものです。
ロシアの首都「モスクワ」はロシア語表記では“Москва”ですが、現地のアーカッチ発音では[マスクヴァー]と発音されます。
また、ロシア文字の“е”と“э”はカタカナで表記する場合はともに「エ」とするのが一般ですが、実際のロシア語の発音では両者は厳密に区別され、前者はアクセントのある場合は「イェー」、ない場合には寧ろ「イ」と発音されます。“у”にしても日本語での軽い「ウ」とは違い、口先を尖らせてはっきりと「ウー」と発音されます。
しかし、日本語で表記する場合には発音を優先する表記法は殆どなく、文字の綴りどおりにカタカナ化する表記方法が一般的です。当ウエブサイト各ページでも、文字通りの表記(つまり「オーカッチ」の発音に近い)を、断りのない限り踏襲しています。敢えて発音として「アーカッチ」でカタカナ化する場合には、[ ] で括ることとします。

また、ロシアの地名では複数の単語からなるものがあり、その場合には“−”(ハイフン、ロシア語で「チレ」といいます)で結ぶ場合と、ハイフンを付けない場合があります。
ここでは、“−”が長音の「ー」と紛らわしいことから、「=」でそれを表記することとし、またハイフンを付けない場合には「・」を挿入することとします。
 例
Ростов-на-Дону  → ロストフ=ナ=ドヌ
Нижний Новгород → ニジニ・ノヴゴロド


当ウエブサイト各ページでは、実際のロシア文字のカタカナ表記についての約束ごととして、各文字を以下の表に沿って表すこととします。
背景色、赤色は母音、水色は子音、灰色は記号を表しています
大文字 小文字 文字の名称 ローマ字翻字例 カタカナ表記の例 母音を伴わない時には
А а アー
Б б ベー バ・ビ・ブ・ベ・ボ  у を挿入し「ブ」とする
В в ヴェー ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ・ワ・フ  у を挿入し、「ヴ」とする。
 語末などで濁らない場合はФと見做し「フ」とする。
Г г ゲー ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ  у を挿入し「グ」とする
Д д デー ダ・ジ・ヅ・デ・ド  о を挿入し「ド」とする
Е е イェー e,je,ye エ・イェ
Ё ё イョー e,jo,yo
Ж ж ジェー zh ジャ・ジ・ジュ・ジェ・ジョ  и を挿入し「ジ」とする
З з ズェー ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ  у を挿入し「ズ」とする
И и イー
Й й イ・クラートゥカエ j,y イ、ヨ  「イ」
К к カー カ・キ・ク・ケ・コ  у を挿入し「ク」とする
Л л エリ ラ・リ・ル・レ・ロ  у を挿入し「ル」とする
М м エム マ・ミ・ム・メ・モ  у を挿入し「ム」とする
Н н エヌ ナ・ニ・ヌ・ネ・ノ・ン  「ン」
О о オー
П п ペー パ・ピ・プ・ペ・ポ  у を挿入し「プ」とする
Р р エル ラ・リ・ル・レ・ロ  у を挿入し「ル」とする
С с エス サ・シ・ス・セ・ソ  у を挿入し「ス」とする
Т т テー タ・チ・ツ・テ・ト  о を挿入し「ト」とする
У у ウー
Ф ф エフ ファ・フィ・フ・フェ・フォ  у を挿入し「フ」とする
Х х ハー kh ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ  у を挿入し「フ」とする
Ц ц ツェー ts ツァ・ツィ・ツ・ツェ・ツォ  у を挿入し「ツ」とする
Ч ч チェー ch チャ・チ・チュ・チェ・チョ  и を挿入し「チ」とする
Ш ш シァー sh シャ・シ・シュ・シェ・ショ  и を挿入し「シ」とする
Щ щ シシャー shch,sc シチャ・シチ・シチュ・シチェ・シチョ  и を挿入し「シチ」とする
Ъ ъ トヴョールドゥィ・ズナーク
(分離記号)
Ы ы ウィー ゥィ
Ь ь ミャーフキー・ズナーク イ(軟音記号)
Э э エー
Ю ю ユー ju,yu
Я я ヤー ja,ya


上記表により、
実際には[ピトゥラパーヴラフスクカンチャーツキー]と発音される“Петропавловск-Камчатский”という地名は、カタカナ化の段階で、“ПеторопавулоФусуку-Камучатсукий”と加工され、「ペトロパヴロフスク=カムチャツキー」と表記することとします。

但し、例外として冒頭に挙げた「ウラジオストク」や「モスクワ」などの既に日本語化した有名地名については、その表記を採ることとし、またСанкт-Петербург”は上記表に従えば「サンクト=ペテルブルグ」と表記することになりますが、“бург”を「ブルク」と表記するのは既に日本語としても一般化しており、ここでは「サンクト=ペテルブルク」とします。



ロシアの行政区画などを日本語で表す場合

ロシアには、地方自治の基本となるロシア連邦を構成する主体 субъект российской Федерации (ロシア連邦構成体)から、小さな村集落や都市の一区画に至るまで、さまざまな行政区画があります。
これら行政区画を日本に置き換えると、都道府県、市、区、郡、町、村、ということになるのですが、もちろん、違った制度で成り立っているロシアと日本の地方自治体の組織を単純比較することはできません。
「ウラジオストク」と言ったところで、それが日本の「新潟」と同じ制度に基づいて存在しているのではないので、同列の「」としての枠組みに無理矢理当てはめて論じたり理解するのは、あまり意味のあることではありません。

しかしながら、ロシアの行政区画を日本語で表す場合、область [オーブラスチ] とか、город [ゴーラト] 、район [ラヨン] といった行政区画名を、そのままカタカナで表記するよりは、日本語で相応する「行政区画用語」としての「州」だとか、「市」、「地区」といった名称を借用したほうが、よほど分かりやすいと考えます。日本で耳にするニュースや、地図などの出版物を見ても「サハリン州」だとか、「モスクワ市」といった表現がなされています。
当ウエブサイトでは地理・人口データをより詳しくまとめ、日頃は接しないような更に細かな行政区画のデータを扱うにあたり、日本語の「行政区画用語」を当てはめて表現しています。あくまで名称の便宜上の「借用」ですが、以下に、各ページで用いたロシアの行政区画名と、その日本語表記の一覧を示しておきます。

行政区画表記一覧
ロシアでの行政区画名 [読み(アーカッチ)] 日本語表記 備考
федеральный округ [フィディラーリヌイ オークルク] 連邦管区 いくつかの連邦構成体をまとめたもの
республика [リスプーブリカ] 共和国 連邦構成体のひとつ。民族共和国
край [クラーイ] 地方 連邦構成体のひとつ
область [オーブラスチ] 連邦構成体のひとつ
автономная область [アフタノームナヤ オーブラスチ] 自治州 連邦構成体のひとつ。民族自治州
автономный округ [アフタノームヌイ オークルク] 自治管区 連邦構成体のひとつ。但し他の州や地方に属する場合が多い。民族管区
закрытое административно-территориальное образование
[ザクルィトエ アドミニストラチーヴナ=チリトーリアリノエ アブラゾヴァーニエ]
閉鎖行政地域 いわゆる「秘密都市」など
город [ゴーラト] 連邦構成体の直轄市と、そうでない(地区や他市の行政区画に属す)市がある。
район [ラヨン] 地区 日本の「郡」に相当。連邦構成体の直轄市や、閉鎖行政地域は含まれない。
地区の中心が定められているが、それが直轄市の場合は、地区には含まれない
городской район [ガラツコーイ ラヨン] 大都市の行政区
городской округ [ガラツコーイ オークルク] 大都市の行政区
посёлок городского типа [パショーラク ガラツカヴァ チーパ] 都市型集落。但し「市」ではない
сельсовет [セリサヴェート] 村ソビエト 幾つかの農村集落をまとめた行政組織
посёлок сельского типа [パショーラク セリスカヴァ チーパ] 農村型集落
село [シロー] 村ソビエトの中心村など、比較的規模が大きい農村集落
станица [スタニーツァ] 同上。ヴォルガ下流域や北カフカスなど、旧コサック軍管区で伝統的にселоに代って用いられる
деревня [ジレーヴニャ] 小規模の農村集落
аул [アウール] カフカス、中央アジア地域での部落


形容詞で表記される地名(州名、区名など)


ロシア語では、都市名などの集落名は名詞で表記されますが、行政区画の名称は、その行政区画を修飾する形を取り、形容詞で表記されます。
ロシア語という言葉は非常に形容詞の発達した言葉で、地名などの固有名詞であっても、その形容詞形というものが存在します。

例えば、シベリア連邦管区に「イルクーツク市」という大都市があり、この都市を州都とする「イルクーツク州」という行政区画があり、また、その下部組織としてイルクーツク市近傍の集落を総括する「イルクーツク地区」というのも存在します。と、日本語で書けば何の変哲もないのですが、これがロシア語だと、その「イルクーツク」が違った形で出てきます。

名称 ロシア語表記 [発音] 備考
イルクーツク市 город Иркутск [ゴーラト イルクーツク] [ゴーラヂルクーツク] 市[ゴーラト]
イルクーツク州 Иркутская область [イルクーツカヤ オーブラスチ] 州[オーブラスチ]は女性名詞
イルクーツク地区 Иркутский район [イルクーツキー ラヨン] 地区[ラヨン]は男性名詞

つまり、行政区画名の場合は、その性質を示す「州」とか「地区」といった名詞を修飾する形として、「イルクーツク」という都市名が形容詞形となって現れ、「名称(形容詞形)+行政区画の種類(名詞)」という順を採ります。そして形容詞は、係る名詞の性(男性、女性、中性、複数)によって語尾が変ります。

では、ロシアでは行政区画を表すものは総て形容詞形で書かれるのかといえば、実はそうではなく、州と同じように連邦構成体に数えられる「共和国」の多くは名詞で書かれ、「共和国+名称」の順になります。「タタルスタン共和国」は“Республика Татарстан” [リスプーブリカ タタルスターン] と書きます。
しかし、それらを日本語で表記する場合には、ロシア語での品詞の如何に拘らず(日本語にそういうシステムがない)、総て名詞形で表記することとし、形容詞形を採っているものは、その基になっている固有名詞をそのまま行政区画の名称とします。
従って、上記「イルクーツカヤ州」は「イルクーツク州」、同様に州や地方の場合、「サハリンスカヤ州」は「サハリン州」、「チチンスカヤ州」は「チタ州」、「ハバロフスキー地方」は「ハバロフスク地方」と表記し、地区や大都市の区の場合も、「ポロナイスキー地区」は「ポロナイスク地区」、「レーニンスキー区」は「レーニン区」と表記しています。

余談ながら、
面白いのが日本語の出版物やサイトなどを見ていくと、形容詞形の名称を名詞形に置き換えてはいるのですが、基になった固有名詞を採らず、勝手に形容詞語尾だけを取り除いたものがしばしば見受けられます。
その代表的な例は「ニジェゴロド州」が挙げられます。ロシア語では“Нижегородская областьと表記されているもので、このНижегородская [ニジェガローツカヤ] という女性形語尾を持つ形容詞の名詞形は、他ならぬНижний Новгород「ニジニ・ノヴゴロド」で、「ニジニ・ノヴゴロド州」と表記するのが原則のように感じます。
表記方法としてのことで、「間違い」とまでは言えないかも知れませんが、これでは「ニジェゴロド」という都市があたかも現地に存在するかのようで、珍妙に思えます。(勿論、集落のレベルでもそんなものは存在しません)



脱線! (ロシアの出版物にみる)日本地名のロシア語表記について


ロシア製の世界地図に表記されている日本の地名を、脱線になりますが、簡単にご紹介します。

その前に、まず、日本語の五十音をロシア文字で表記すると次の表のようになります。

あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行  ん  が行 ざ行 だ行 ば行 ぱ行
子音

н



а

ка

са

та

на

ха

ма

я

ра

ва


га

дза

да

ба

па

и

ки

си

ти

ни

хи

ми


ри


ги

дзи

дзи

би

пи

у

ку

су

цу

ну

фу

му

ю

ру

гу

дзу

дзу

бу

пу

э

кэ

сэ

тэ

нэ

хэ

мэ


рэ

гэ

дзэ

дэ

бэ

пэ

о

ко

со

то

но

хо

мо

ё

ро

го

дзо

до

бо

по


キャ
кя
シャ
ся
チャ
тя
ニャ
ня
ヒャ
хя
ミャ
мя

リャ
ря
ギャ
гя
ジャ
дзя
ヂャ
дя
ビャ
бя
ピャ
пя
キュ
кю
シュ
сю
チュ
тю
ニュ
ню
ヒュ
хю
ミュ
мю
リュ
рю
ギュ
гю
ジュ
дзю
ヂュ
дю
ビュ
бю
ピュ
пю
キョ
кё
ショ
сё
チョ
тё
ニョ
нё
ヒョ
хё
ミョ
мё
リョ
рё
ギョ
гё
ジョ
дзё
ヂョ
дё
ビョ
бё
ピョ
пё

そこで、ロシア製の地図などで日本の地名をロシア語でどのように表記しているかですが、概ねこの表に沿って転字されています。広島なら“Хиросима”、同様に福岡“Фукуока”、札幌“Саппоро”となります。また、長音は書かず、大阪なら“Оосака”ではなく“Осака”、甲府も“Коуфу”ではなく“Кофу”です。

ところが「え」の欄の発音の場合は、単に「え」の場合、例えば松江は“Мацуэ”、枝幸は“Эсаси”で良いのですが、それ以外の「け・せ・て・・」の場合は“э”ではなく“е”が用いられています。神戸は“Кобе”、函館は“Хакодате”となります。
また、拗音の「ょ」の場合は“ё”ではなく“ио”で書かれています。東京は“Токё”ではなく“Токио”となり、京都も“Киото”です。兵庫に関しては“Хиого”と“Хёго”のどちらもが見受けられます。

「よ」については“ё”、“ио”、“йо”があり、統一されていないようです。四日市は“Йоккаити”、横浜は特別で“Иокогама”(ヨコガマ)、豊橋は“Тоёхаси”などと書かれています。
他には母音の後の「い」で、それが一つの漢字に含まれるような場合は、例えば「せんだい」の「い」などは“и”ではなく“й”で表記されるようです。仙台は“Сендай”、稚内は“Вакканай”です。



 日本行政区画のロシア語表記について

ロシア語で日本の都道府県など、行政区画を表現する場合に用いられている語句を、参考までにロシアでの出版物やネットから拾い集めてみました。
ロシアとは全く違った地方自治制度から成り立っている日本の行政区画を説明するために、現在のロシアでは用いられていない古い行政単位を借用するなどの苦労が見受けられます。
行政区画 ロシア語表記 [読み(アーカッチ)] 備考(本来のロシア語の意味など)
столица [スタリーツァ] 首都
губернаторство [グビルナータルストヴァ] 帝政ロシア時代の「県」губернияより
округ [オークルク] 管区
префектура [プレフェクトゥーラ]
город [ゴーラト]
городской район [ガラツコーイ ラヨン] 大都市内部の区
уезд [ウイェースト] 帝政ロシア時代の郡、「県」губернияの構成単位
городская волость [ガラツカーヤ ヴォーラスチ] волостьは「郷」と訳され、帝政ロシア時代の「郡」уездと「村」селоの中間の行政地域単位
сельская волость [セリスカーヤ ヴォーラスチ]

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