ロシア語の地名といったものは、われわれ日本人には一般に馴染みが無く、一度聞いてもすぐには覚えられないようなものが多いように感じます。
例えば、カムチャツカ州の州都で軍港都市としても有名な「ペトロパヴロフスク=カムチャツキ-」と言う、長くて舌を噛みそうな都市名があります。しかし、この都市名は「ペトロ」+「パヴロ」+「フスク」+「カムチャツキ-」と分解して考えることが出来ます。
この都市名の由来は、1740年にカムチャツカ半島からアリューシャン列島一帯を探検航海したベーリング氏の麾下の「聖ピョートル号」と、チリコフ麾下の僚船「聖パーヴェル号」が半島東岸にある良港アヴァチャ湾に停泊し、ここを北太平洋方面の探検の根拠地として「ペトロパヴロフスク」と命名したことに因ります。「ペトロ」は「ピョートル」の、「パヴロ」は「パーヴェル」の短縮形で、それにロシアの都市名語尾として一般的な「フ+スク」を合わせ命名したことが伺えます。ただ、「ペトロパヴロフスク」という地名はロシアでは他にもあり、それらとの混同を避けるために1924年に「カムチャツカ」の形容詞形である「カムチャツキー」を付け、「カムチャツカのペトロパヴロフスク」とし、現在の都市名となりました。
さて、前置きが長くなりましたが、そういったことを踏まえて、ロシアの都市名について見ていきましょう。
【地名語尾 〜スク】
先ず目に付くのは、「アンガルスク Ангарск」とか「ウスリースク Уссурийск」等に見受けられる「〜スク 〜ск」の語尾を持つ都市名でしょう。「イルクーツク Иркутск」、「オホーツク Охотск」もこれに当たります。
「〜スク」は「〜スキー」と同じく地名語尾で、だいたい「〜の街」ぐらいの意味です。
この地名語尾は集落の規模によってある一定の法則があり、それはロシア語の品詞(名詞と形容詞)と密接な関係があります。(下表参考)
(注)地名語尾の品詞について「形容詞」としているのは、語尾の形だけをとって「形容詞風の語尾」ということを示します。文法上の品詞分類では地名である以上、形容詞形の語尾であっても、それは固有名詞であり、名詞であることは言うまでもありません。
性質 |
ロシア語 |
地名語尾 |
表記 |
「発音」 |
品詞 |
地名語尾 |
表記 |
品詞 |
市 |
город |
[ゴーラト] |
男性名詞 |
〜スク |
〜ск |
男性名詞 |
町 |
посёлок |
[パショーラク] |
男性名詞 |
〜スキー |
〜ский |
形容詞男性形 |
村 |
село |
[セロー] |
中性名詞 |
〜スコエ |
〜ское |
形容詞中性形 |
小村 |
деревня |
[ヂレーヴニャ] |
女性名詞 |
〜スカヤ |
〜ская |
形容詞女性形 |
このことは、例えば極東にあった村落「ハバロフカ」が発展とともに「ハバロフスキー」「ハバロフスク」と名称を変えていったことや、サハリン州にあった「レソゴルスク市」が「レソゴルスコエ村」に格下げとなったことにも見受けられます。
もちろん例外もつき物で、「村」にも拘らず「〜スク」といった村落名も存在します。これなどは、
1・もともと都市並みの規模だったが、衰退した。
2・都市にすべく開発が進められたが、叶わなかった
といったドラマが邪推できそうです。
さて、冒頭に挙げた4市に共通するものは「〜スク」が、河川名に付いたもので、付近に「アンガラ」「ウスリー」「イルクート」「オホート」といった河川があり、「アンガルスク」だと「アンガラ河畔の街」といった意味です。「ウスリースク」はウスリー川本筋からはかなり離れており、「ウスリー地方の街」といったところでしょうか。もちろん「〜スク」が付くものは、河川名に限らず、地域名、島名、山脈名、海洋名や地形を表す名詞にも付けられています。
またよく見られる、「〜ゴルスク 〜горск」「〜レチェンスク 〜реченск」「〜モルスク 〜морск」「〜オジョルスク 〜озёрск」「〜ザボーツク 〜заводск」は、それぞれ「山 гораの街」、「川 рекаの街」、「海 мореの街」、「湖 озераの街」、「工場 заводの街」を表します。
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